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2006年06月25日 第108号

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REPORT
トヨタ自動車が白川村を活性化

 社会貢献活動など「企業の社会的責任」(CSR)の一環として、一般市民を対象とした自然体験型の環境教育に取り組む企業が増えている。中でも注目を集めているのがトヨタ自動車。世界遺産の合掌集落で知られる岐阜県白川村に2004年、『自然学校』と呼ばれる環境教育プログラムが受けられる宿泊施設を建設した。宿泊者は初年度から1万人を上回り、そればかりか、低迷していた村の観光客の宿泊率をも高めてしまった。

FEATURE
平成の大合併の影で消え行く集落
限界集落を歩きつづける大学教授が語る

地下足袋にリュックを背負い、黙々と山村を訪ね歩いては、衰退する集落の姿を30年以上も調査し続けている大学教授がいる。長野大学の大野晃教授(66歳)。これまでに訪れた集落は国内だけでも150を超える。さらに、ルーマニア北部の集落やスウェーデンの山村など世界の調査も継続的に行っている。
 大野教授は1軒1軒の家を、5年、10年、20年にわたり定期的に訪れ、農地の所有状況や耕作の状況、山林の所有状況、健康状態、家族がどこにいるか、など聞き取りを行うという徹底した現地主義を貫き通している。その報告書から見えてくるのは、単なる数値的な過疎化の傾向ではなく、地方格差の生々しい現実の姿だ。

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INTERVIEW
泡沫(ほうまつ)候補といわれた新人が市長に当選した

 札幌と新千歳空港の間に位置する恵庭市(人口6万7000人)で昨年末、泡沫(ほうまつ)候補といわれた新人が、3選を目指す当時の現職を破る市長選が行われた。
 市内に3つの自衛隊駐屯地を持つ恵庭市では、自民党推薦の候補が優位に立つ。そんな政治風土の中、市民の心をつかんだのは、従来の地盤(組織)、看板(知名度)、カバン(お金)ではなく、絵本仕立てのマニフェスト(公約)だった。
 内閣府とまちづくり新聞が5月19日に開いた「地域再生まちづくり勉強会」で、昨年11月に恵庭市長に就任した中島興世市長が、自身のマニフェストについて講演した。その内容を紹介する。

STUDY
平成の大合併で年間1・8兆円も経費削減

 平成の大合併により市町村の経費は年間1・8兆円節減できる―。
総務省が設置した市町村の合併に関する研究会(座長=小西砂千夫・関西学院大教授)は17年度で合併効果を調査した。合併後の557団体を対象に試算した結果、おおむね2016年度以降、職員人件費を中心に年間1・8兆円が削減でき効率化が図れる。数量化できない効果では住民サービス向上などを挙げた。研究会は18年度では合併後の課題について検討する。

TOPIC
NPOなどへの助成プログラムを企画開発

 社会貢献活動の一環としてNPOやボランティア団体へ助成する企業や財団などが増えている。しかし、目的や使い道を明確にしない安易な資金援助は、逆に運営組織を脆弱化させかねない。特定非営利活動法人「市民社会創造ファンド」(本部:東京)は、企業や財団と協力し、NPOなどを対象とした効果的な助成プログラムの企画開発や、公募・選考などを含めた助成業務を展開している。

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トヨタ自動車が白川村を活性化

企業の社会貢献が環境教育を変える!

自然学校といっても、入学式や卒業式があるわけではない。明確な定義はないが、一般的には指導者がいて自然体験型の環境教育プログラムが受けられる施設のことを言う。プログラムは、1時間程度のものから数日間、数週間にわたるものまで様々だ。
 民間の自然学校を運営・プログラム策定面などから幅広くサポートしている社団法人日本環境教育フォーラム(東京都)によれば、すでに全国ではNPOを中心に、こうした施設が各地に誕生している。さらに、ここ数年、企業の間でも自然学校を開設、あるいはCSRの一環として自然体験型の教育プログラムを導入するケースが増えているという。【関連3面】
 大黒栄二事務局長は「CSRは企業のイメージ・信頼度などを高め、結果として事業活動に結びつく。社会貢献とは言え、企業として取り組む以上、採算性を考えるし、参加者にいかに満足してもらえるか工夫もする。したがって、環境教育の効果はかなり期待できる」と語る。
 トヨタ白川郷自然学校では、モーニング・ガイド・ウォークといって、朝早くから山の中をインタープリター(※)と一緒に歩くプログラムや、シルクと落ち葉を使ったクラフト工房、さらには絶滅危惧種であるギフチョウを増やす取り組みなど、大人でも子供でも気軽に楽しめる内容のものから本格的な環境保護活動まで実に20種類以上のメニューから自分にあったプログラムを選ぶことができる。
 初年度の利用者(宿泊者)は1万1400人。今年度は、ゴールデンウィークだけでも昨年を200人以上も上回る好調さだ。【2面へ】

企業と村の双方にメリット
集団離村した集落を自然学校に

■放置された豪雪地
 トヨタが自然学校を設立した背景には、村の歴史が大きく関わっている。
 自然学校がある馬狩地区は、世界遺産に登録されている合掌集落から2`ほど北へ向かった村内でも最も降雪量が多い豪雪地帯。昭和48年代に住民が集団離村した場所だ。
 同年トヨタ自動車が離村費用を賄うような形で村を介して馬狩地区全体(約172ha)を取得。残存する合掌家屋を従業員の保養施設として活用していた。しかし、昭和56年の大雪でほとんどの合掌家屋は倒壊。それ以降、20年もの間、馬狩地区は遊休地の状態となって放置されていた。
■伸び悩む観光客
 一方、白川村は平成7年に白川郷の合掌集落が世界遺産に登録されたことで年間60万人足らずだった観光客が150万人まで増加。建設業を中心とする第2次産業も、昭和30年代まで続いたダムや発電所の建設以後、落ち込んでいたが、東海北陸自動車道の建設で再び活気を取り戻していた。
 しかし、こうした好調さは、将来的な村の不安材料でもあった。
 村の人口は平成12年の国税調査で2151人。平成7年からの人口増加率は13・6%と県内トップを誇る。しかし、17年の国税調査では1983人と一気に減少に転じた。この数字が示すのは、7年から12年には高速道路の建設工事にともなう一次的な転入者があったが、工事の終了に伴い、村の人口が再び減少に向かったことを意味する。
 観光客も平成15年の149万5000人をピークに、16年度は138万4000人、17年度は135万6000人と減少に転じている。産業・雇用の創出は、村の持続的な発展に欠かすことができない課題であった。
■産業・雇用面で効果
 自然学校の設立は、自社所有地の有効活用と、環境分野での社会貢献を模索するトヨタにとっても、産業・雇用の創出を模索する村にとってもメリットをもたらすものだった。
 施設はトヨタが30億円を投じて建設。収用人員100名のゲストハウス、温泉、セミナー端数、その他レストランや屋外施設などを備える。
 運営はトヨタと白川村、それに自然教育のノウハウを持つ社団法人日本環境教育フォーラムで構成する「NPO法人白川郷自然共生フォーラム」。トヨタが施設を所有し、運営をNPOへ委託している。
 村への経済効果は大きい。自然学校の常勤はパートを入れて40人。このうち10人が地元雇用だ。料理に使う野菜や川魚なども地元からの調達にこだわっている。このほか、「学校に1泊したら、次は民宿に泊まる」なと、地元旅館組合と連携した連泊ツアーなども取り入れ、民宿など村の産業への影響に配慮した。
 その結果、これまで6万人足らずだった村全体の宿泊者は、昨年8万人へ大幅に伸びた。
 トヨタから出向している小川賢一総支配人は「仮に自然学校ができたことで村の宿泊者が減ったなら、市場を奪われたということになるが、自然学校への利用者以上に村の宿泊者が増えたということは相乗効果が出ているということ」と順調さを説明する。
 利用者の反応はどうか―。
 名古屋市から夫婦で旅行に訪れていた森さん(男性・50代)は「ザワザワしていないで、ゆっくりと自然を楽しめる場所なので申し込んでみた」とする。横浜市からの小島さん(70代・女性)は「自然の中で、生き物を観察してみたかった」と参加理由を話す。
 どちらも「夏や秋にも訪れたい」(森さん)、「少し遠いけど、また来たい」(小島さん)と評価は高い。
 小川総支配人よると、いくつかのトヨタ自動車の販売店ではキャンペーン期間中の商品などとして、自然学校への招待券を活用しており、優しいイメージの景品として人気が高まっているという。

環境教育プログラムを体験!

自然のメッセージを聞け

 トヨタ白川郷自然学校の魅力は何といっても豊富な教育プログラムだ。モーニング・ガイド・ウォークやクラフト工房、絶滅危惧種であるギフチョウを増やす取り組みなど、20種類以上のメニューがある。
 例えば、ギフチョウを増やすプログラムでは、ギフチョウの成虫が蜜を吸う「カタクリ」を増やすためにスタッフと参加者が一緒になって雑木林の手入れなどをする。
 高速道路のトンネル掘削工事で発生した残土置き場を、合掌屋根の葺き替えで生じる古いカヤを土壌改良剤としてブナの森に再生する取り組みも行っている。このほか、間伐材からペレットストーブの燃料となるペレットを製造したり、簡単な水力・太陽光・風力発電なども行えるようになっている。
 いくつかのプログラムを実際に受けてみた。
 まず、「不耕起冬期湛水稲作プロジェクト」。長くて難しい名前だが、簡単に言うと「耕さない稲作」のこと。稲を刈り取った後も、耕さず、冬に田に水を入れることで、自然に土壌をやわらかくして微生物や藻類の増加させる。手間が省けることに加え、雑草の繁殖も抑えることができ、農薬の削減(基本的に使わない)につながるという。
 参加者はスタッフ3人と、自然学校の職員6人、それから一般から応募があった4人の計13人だ。5月末とはいえ、周辺には残雪もあり、水は冷たい。田んぼに指を入れると思ったより土がやわらかくて驚く。前年の稲の根がまだ残っているが、この根が空気を土の中に運んでくれるのだという。
 参加者が求めるものは様々だ。神奈川県から訪れた工藤さん(40代男性)は「地元ではNPOの一員として放棄された棚田を整備している。不耕起農法を勉強してみたかった」と目的を話す。愛知県から参加した野田さん(20代女性)は「飲食店の手伝いをしているが、一度、農業を体験してみたかった」という。
 近年、白川村では高齢化などから農業の担い手が少なくなっており、田んぼをつぶして駐車場にする人も増えているという。この方法が成功すれば、あるいは合掌集落の景観に必要な田園風景を守ることにもつながる。
 地元出身で、このプロジェクトの責任者であるスタッフの下山勝巳さんは「3年間やってみて成果が出れば、合掌集落の中でもやってみたい。周辺の田んぼとの調整など、課題はあるが地域の役に立つことができれば」と抱負を語る。
■朝の散策
 モーニング・ガイド・ウォークは、朝露きらめく森の中を散策する気持ちのいいプログラムだ。約1kmのコースをインタープリターと一緒に、鳥を見たり、自然を観察しながらゆっくりと回る。
 野鳥の鳴き声はあちこちから聞こえる。
 ピーチョリリリー。
 インタープリターの山田俊行さんは三脚付きの望遠鏡で木の上にいるホオジロに照準を合わせる。「のぞいて見てください。この鳴き声が一筆啓上たてまつろう≠ニ聞こえるそうなんです」。
 しばらく歩くとスギ林の中で小さな花を指差す。「オウレンといって胃薬の成分があるんです」。リュックからキハダの皮を取り出し「こんな味がするんです」と説明を加える。
 少し山の中に入ると、一面にカタクリの花が咲いている。「ここは絶滅危惧種のギフチョウがたくさん生息しています。山が整備されなくなるとギフチョウのエサになるカタクリがあまり生えなくなってしまうんです」。
 インタープリターは常に参加者と接しているいわば自然学校の顔だ。山田さんは9人いるインタープリターのチーフを務める。
 「お客様はそれぞれの目的でプログラムに参加します。中には自然の中で癒されたいという人もいますし、実際に環境保全に役立つことをやってみたいという方もいます。理想から言えば、皆さんに自然保護の活動をしていただけるようになっていきたいわけですが、急にできることではありません。ですから、私たちの役割は、自然の中で、何が起きているのかをメッセージとして参加していただいた方に伝え、問題は何なのか、あるいは、どんなことが大切なのかを、自分で考えていただけるようにすることだと思っています」


平成の大合併の影で消え行く集落

限界集落を歩きつづける大学教授が語る

発想型から政策提起の地域づくりへ

長野大学教授・高知大学名誉教授 大野晃氏(66)

 地下足袋にリュックを背負い、黙々と山村を訪ね歩いては、衰退する集落の姿を30年以上も調査し続けている大学教授がいる。長野大学の大野晃教授(66歳)。これまでに訪れた集落は国内だけでも150を超える。さらに、ルーマニア北部の集落やスウェーデンの山村など世界の調査も継続的に行っている。
 大野教授は1軒1軒の家を、5年、10年、20年にわたり定期的に訪れ、農地の所有状況や耕作の状況、山林の所有状況、健康状態、家族がどこにいるか、など聞き取りを行うという徹底した現地主義を貫き通している。その報告書から見えてくるのは、単なる数値的な過疎化の傾向ではなく、地方格差の生々しい現実の姿だ。
 大野教授著「山村環境社会学序説〜現代山村の限界集落化と流域共同管理〜」(農山漁村文化協会刊)の一節を紹介する。
 「独居老人の滞留する場と化した村。人影もなく、一日誰とも口を聞かずにテレビを相手に夕暮れを待つ老人。時折、天気がよければ野良に出て、自分で食べる野菜の手入れをし、年間36万円の年金だけが頼りの家計に移動スーパーのタマゴの棚に思案しながら手を伸ばす、しわがれた顔。バス路線の廃止にをなくしタクシーでの気の重い病院通い。1カ月分の薬をたのみ、断られ、2週間分の薬を手に魚屋で干物を買い、家路を急ぐ老人。テレビニュースの声だけが聞こえてくるトタン屋根の家が女主人の帰りを待っているむら――」。
◎限界集落が環境を崩壊する◎
 65歳以上の高齢者が人口の半数を超え、冠婚葬祭や生活道などの社会的な共同生活の維持・管理が困難になっている地域のことを、大野教授は『限界集落』と呼ぶ。平成の大合併では、こうした集落を抱える自治体の多くが合併し表向き姿を消したが、大野教授は「集落そのものは取り残されたままで、何も変わっていない」と指摘する。
 集落が衰退すれば、山の手入れができる人がいなくなり山林の荒廃をまねく。その結果として、下草も生えないような山が増え、保水力が落ち、鉄砲水が発生しやすくなって川や海へ悪影響が出る。
 「集落の崩壊はすなわち、環境の崩壊へつながる。山の荒廃を食い止め、森林の環境保全をはかっていくためには、流域単位で住民が連携し、自分たちの流域を共同で管理していくことが求められる」。大野教授が主張する流域共同管理論だ。上流、中流、下流という流域社会圏の枠組みの中で、上流の人が水源を守り、下流の人たちは上流を支援する新しい社会システムが不可欠だとする。
 ただ、前提として求められるのは地域住民が自ら政策を企画・立案する力。
 「終戦から60年を経た日本の戦後民主主義は、国からの一方的な政策の押し付けにより、地域住民が地域に即した施策を自分たちでつくるという地方分権の根幹を欠落させてきた。 まずは集落単位で住民が集まり、流域の現状を話し合い、人口の将来予測なども含めて自分たちで地域を分析することが重要だ」とする。そのことで、地域の課題が明確となり、求められる政策が何なのかが見えてくると――。
 自分たちでできること、自治体にしかできないこと、国にしかできないこと、こうした色分けをした上で、政策発表を行い、そこに自治体の職員をひっぱり出し、問題提起することを提案する。
 80年代、90年代の地域づくり、村おこしは、情熱的な地域リーダーが中心となり、アイデアと発想で地域に産業と雇用を生み出してきた。大野教授は「これからは、アイデア提案型の地域づくりだけではなく、明確な分析にともなう政策提起型の地域おこしを行っていく時代」と地域戦略の必要性を強調する。
◎ 日本で初めての環境ツーリズム学部◎
 大野教授は長野大学で、自然環境と調和した観光振興による地域づくりを学ぶ日本で初めての『環境ツーリズム学部』の創設に取り組んでいる。
 「山や川の美しい自然や集落のたたずまい、伝統文化などの地域資源を、いかに観光の振興に生かし地域社会を発展させていくか」―。これまでのライフワークとして取り組んできた<人間と自然>がともに豊かになるような地域社会の実現に向け、21世紀を担う新たな人材の育成に努めたいと語る。

◆ ◆ ◆
大野晃(おおのあきら)教授
 1940年生まれ。現在、長野県上田市在住。長野大学教授、高知大学名誉教授。専門は環境社会学、地域社会学。昨年刊行した「山村環境社会学序説」(農文協刊2005)は、この春「高知出版学術賞」を受賞。趣味は短歌や骨董鑑賞、釣り、スキーと幅広い。57歳で始めたスキーは現在1級の腕前。「カツオのタタキ」料理は料亭の板前以上とも。

投稿者 machizukuri : 更新日2006年06月25日

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