紙面紹介

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2006年09月25日 第117号

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REPORT スーパー自治体の戦略
5倍の食料、6倍のエネルギーを生産

 世界が直面している「食料」「エネルギー」「環境」の3つの問題を、すべてクリアした自治体が岩手県にある。人口8300人の「葛巻町」だ。主産業である酪農は、カロリーベースで町人口の5倍、約4万人分の食料にあたる牛乳を生産する。エネルギーは、風力、バイオガス、太陽光で、全世帯の6倍にあたる1万7200世帯分の発電を可能にする。そして、豊かな自然。
 全国の自治体が3セク経営に頭を抱える中、この町では4つの3セクがそれぞれ連携しながら年間16億3000万円を稼ぎ出し地域経済を支えている。今、全国から最も注目を集めている自治体の戦略に迫った。

日本初のペレット製造

 葛巻町には、日本で最も早く木質バイオマスの活用に取り組んだ企業がある。葛巻林業鰍ヘ、昭和58年からペレット状の木質燃料の製造を手がけている。1sのペレット工場出荷額は25円と破格の安さだ。

FEATURE 地域ブランド
最も魅力的な市は札幌市

 全国で最も魅力的な市は札幌市――。
 潟uランド総合研究所(東京都)が今年8月に初めて実施した「地域ブランド調査」で、こんな結果が出た。北海道は、函館(3位)、富良野(6位)、小樽(7位)、旭川(18位)、登別(20位)の6市がトップ20位にランクイン。年間4000万人の観光客数を誇る京都市は5位とトップ3から外れた。調査は国内の全779市を対象に、各市のブランド力を消費者側が点数付けしたもので、同社では「地域ブランド戦略を策定する上で、有効な評価指標になる」と話している。

企業PR イッツ・コミュニケーションズ
重機ネットワークで被災者支援

 NPO法人横浜青葉まちづくりフォーラムと東急グループのCATV(ケーブルテレビ)会社、イッツ・コミュニケーションズ株式会社(神奈川県川崎市、野本弘文社長)は、9月1日行われた横浜市総合防災訓練で、重機ネットワークで被災者を救援する「いのちの地域ネット」の活用訓練を行った。同ネットワークは、18年度全国都市再生モデル調査事業に採択され、19年3月までに調査結果をまとめ報告書を作成する予定だ。地域のNPO法人が住民、自治体、企業と連携した取り組みを紹介する。

INTERVIEW 経団連ライブラリアン村橋勝子氏
「東京ではなく郷土を向け」 企業の社会貢献を問う

 社会貢献活動に取り組む企業が増えている。ボランティア活動に社員を参加させたり、まちづくり活動を行うNPOへ資金援助するなど、今や社会貢献活動は企業にとって当然の義務かのように見られている。
 しかし、単にお金を出したり、ボランティア活動に社員を参加させることが、本当に企業が取り組むべき社会貢献なのだろうか――。
 社団法人日本経済団体連合会ライブラリアンの村橋勝子氏は、日本で発行された社史約1万3000点のうち1万点に目を通し、その分析結果を「社史の研究」(ダイヤモンド社)にまとめた。村橋氏は、単にお金を出したり、ボランティアに参加する社会貢献活動について「もっと本業の中で、社会や地域のためにやれることがあるのではないか」と疑問を投げかける。

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スーパー自治体の戦略

葛巻町3セク成功の秘密

 「鉄道も高速道路も、ましてや有名な温泉もない。そういう地域だから、険しい気象条件を資源として、それを最大限に生かしたまちづくりがしてこれたのだと思いますよ」。
 こう語るのは岩手県葛巻町企画財政課の觸澤義美課長だ。
 北上山地の山麓に位置する典型的な農山村。昭和35年に16000人近くいた人口は、その後の過疎化で約半分にまで減少した。
 資源といえば、明治25年に産業振興策として導入した酪農と、町の85%を占める森林ぐらいだった。
 そんな町が「ミルクとワインとクリーンエネルギーの町」として生まれ変わった。
 「ミルク」「ワイン」「クリーンエネルギー」は、いずれも地域資源を生かすことによって創出した産物である。その経済効果は4つの3セク経営に集約される。
 公共牧場の管理運営を行う「葛巻町畜産開発公社」、山ぶどうのワインをつくる「葛巻高原食品加工」、観光客らを対象とした宿舎やレストランを運営する「グリーンテージくずまき」、そして風力発電を行う「エコ・ワールドくずまき風力発電」である。
 年間の総売上は16億5000万円、総従業員は160人と地域経済の柱になっている。
 それぞれの3セクは、1次産業(畜産)から2次産業(ワイン加工)、3次産業(宿泊サービス)へと順序立って設立されてきた。さらに自然エネルギー(風力発電)が加わることで、1次から3次を掛け合わした「6次産業+環境」という新しい地域イメージを誕生させた。8300人の町への観光客は年間50万人にものぼる。
 
酪農ビジネスモデルからの展開
葛巻町3セク成功のポイント

 3セクによる「地域活性化」戦略の始まりは30年前まで遡る。
 1つの目の3セクは、昭和51年に設立された畜産開発公社。当時の高橋吟太郎町長が「町民が飼う牛の量を2倍にして、牛乳が3倍生産できる町にしたい」と町の資源であった酪農を最大限生かすために立ち上げたものだ。
 牛の数を倍にするといっても山に囲まれた谷間の町には土地がない。目をつけたのは、標高1000mを超える北上山系だった。草木も生えない山地に、国営事業を導入して、牧場開発を行った(総事業費146億円)。
 広大な牧場を管理するには、人材や知識も必要になった。公社では、岩手県の先進的な民間牧場である小岩井農場から人材を招聘(しょうへい)し、現場責任者に据えた。「当時、民間との協働なんて全国どこを見渡しても無かった時代です。トラック1つ買うにしても中古品と、行政に欠けているコスト意識を叩き込まれました」。
 鈴木重男専務理事は当時をこう振り返る。
 公社の業務は、農家が搾乳に専念できるように、子牛を預かり育てることだ。1頭あたり500円。これが収入のすべてだった。
 「最初は500頭を集めるのに10年ほどかかりましたが、その後、県外へも呼びかけ、今では3000頭にまで増やすことができました」。県外の牛を預かることには反対の意見もあったが、公社が自立した経営基盤を築くために押し切った。
 農家への技術指導も行った。50頭の搾乳モデルを模範展示し、酪農農家を招き指導したのだ。
 こうした取り組みの結果「牛の量を2倍にして、牛乳を3倍生産する」目標は見事達成された。
 5000頭しか飼育されていなかった乳牛の数は、現在1万1000頭にまで増え、搾乳量も日量30tから、3倍以上の120tまで大幅に伸びた。
 乳牛の哺育育成事業に成功すると、公社では、さらに雇用を増やすため、肉牛の哺育にも着手した。その次は精肉屋、そして焼肉屋、さらにはチーズ、アイスクリーム、パンへと事業を拡大させた。
 こうした取り組みにより、30年前、わずか10人でスタートした畜産公社は110人の雇用を生むまでなった。年間売上げは11億円に達し、経常利益3300万円を誇る。
 設立当初からの生え抜き職員である鈴木専務は、成功のポイントについて「1つ1つの事業をきっちりとやってきたことだ」と語る。
 「本業はしっかりとやる。でも本業がつぶれても倒れないように多角的に取り組む。1つの目標を達成したら、その次。毎年、毎日の繰り返しだ」と―。
 次なる展開として中国への進出もしたためている。「中国の技術発展のスピードは予想以上に速いが、安全という面から入り込める余地はあると思う」(鈴木専務)。

森林資源を生かす 

 2番目に設立された3セクは葛巻高原食品加工梶Bもう1つの地域資源である「森林」の活用策として、山ぶどうを生かしたワインづくりを開始した。「昔から山ぶどうをジュースにする習慣が地域にはあったのです」(町企画財政課の觸澤課長)。
 昭和61年、62年に工場を整備し、63年に醸造の許可を受け事業をスタート。
 しかし、平成7年までには8000万円の累積赤字となり、事業存続は極めて厳しい状況となった。
 この時、当時、畜産開発公社で手腕をふるっていた鈴木専務が、葛巻高原食品加工へ出向。平成10年までに黒字転換を果たした。
 「ワインを外へ売っていくためには、まず町民が自分たちのワインであることを意識しなくてはいけない。そこで2カ月に1回、町民を招いたワインパーティーを開いたのです」(觸澤課長)。
 町民からの意見をもとに改善改良を繰り返し、同時に町は、ワイン技術者の育成や、霜に弱かった山ぶどうの品種改良などを資金的にバックアップした。
 葛巻高原食品加工は、年商3億5000万円、経常利益で2000万円近を経常する3セクの稼ぎ柱に成長した。
 3つめのグリーンテージ(平成4年設立)は、こうした特産品の販売やレストラン運営、宿泊(24室80人)などを手がける。
 売り上げは年間1億5000万円。利用者に限りはあるが、それでも100万円の利益を計上している。
 4つ目の3セク「エコ・ワールドくずまき風力発電」は、それまで牧場で厄介者だった風を資源に生かした展開だ。
 平成10年に建設した風力発電施設3基の発電量は186万4700kWh。買電単価は11・5円で、売り上げは1095万円にのぼる。ただ、維持管理、減価償却などの支出を厳密に計算すると年間2億円もの赤字になる。
 しかし、町からの持ち出しはゼロ。実は、この風車は、標高1000m以上における風力発電の実証試験を行うために、企業が運転しているもので、町は資本金1000万円を出しただけ。
 スタッフも1人の職員が兼務であたっているため、実質的には赤字にはなっていないというわけだ。
 そればかりか、牧場に立つ風車が、新たな観光イメージを創り出し、集客など経済効果まで生み出している。
 平成13年には、エコ・ワールドくずまき風力発電に続き、特殊法人の電源開発(Jパワー)が50億円を投じて1750kWの大型風車を12期を設置した。
 さらに町では、太陽光や、家畜の糞尿を生かしたバイオマス発電、間伐材などの木質バイオマス発電にも着手し環境ブランドを確かなものにした。
 ちなみに、3セク、民間をあわせた風力発電施設(15基、計2200kWh)、中学校へ設置している太陽光発電システム(50kWh)、畜産バイオマス発電(37kWh)、木質バイオマス発電(120kWh)すべてを合算すると、建設投資だけで57億1000万円がかかっていることになる。
 しかし、これまでに町の予算から投入された資金はその1%(6500万円)に過ぎない。
 環境ブランドが定着した葛巻町は、先進的な企業にとってPR効果も兼ねた実証試験のフィールドになる。そのため、多くの自然エネルギー施設が、企業の負担で取り組まれているのだ。
 最近では、町内の民有林を民間企業が管理する「企業の森」事業も始まっている。首都圏の企業からの申し出を受けたもので、企業は顧客を招いて植樹や憩いの場の整備など、環境教育や社会貢献に森林を活用するのだという。

投稿者 machizukuri : 更新日2006年09月25日

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